シーガン獲り

 

 6年前に出した『海辺を食べる図鑑』は、いまだに好調な売れ行きを見せている。海辺の貝、海草、魚はもちろん、ウニ、ヤドカリ、ナマコ、カニまで136種類の獲り方、食べ方を紹介する本だ。136種といっても、まだまだ未掲載の種類も多い。

 

 釣り好きの友人から、ハゼが未掲載なのは残念だという電話があった。ハゼは鹿児島ではあまり見ないが、宮崎以北では普通にいて人気の魚だ。こいつは昨年、本の営業がてら大淀川で竿を出してものにした。

 

 奄美、沖縄では普通に釣れるモンガラカワハギの仲間も載っていなかった。皮が分厚く硬いため、包丁では歯が立たない。料理バサミで肛門から皮を切れば大丈夫。食べ方を知らず、ポイする人もいる。もったいない。これも、料理法を含め何種か写真に収めた。
 こんなふうに刊行後もどんどん追加しているから、もう300種ほどにもなったろうか。


 だが、もう一つ、絶対載せたいものが手つかずで残っていた。シーガンだ。奄美、沖縄ではずっと昔から食べられてきたから外すわけにはいかない。シーはサンゴ礁を指す。ガンはカニだ。サンゴ礁のリーフの先端、波の当たる際にいる。

 

 いつでも獲れるわけではない。潮が大きく干上がる大潮の干潮でなければ、奴らの住処までたどり着けない。しかも、6月の梅雨時の産卵前が最高にうまい。となれば、一年の内にチャンスは6月の2度の大潮のときだけ。潮見表で確認したら6月5日水曜日が大潮だ。平日だけど船中2泊を含めて3泊の奄美行きを決行した。 

 

 干潮は午後2時。1時過ぎに北大島の目当ての海岸に着き、リーフの先端を目指す。潮が引いているので先端まではかなりの距離だ。それでも、気がはやるもんだから岩の上をピョンピョン跳ねていく。

 

 

 

 波の打ち上がる先端に着いた。目指すシーガンは穴の中に潜んでいるから、タコの切り身を棒の先に結び付け、それでおびき出す。
ホレ、ホレと、穴にタコを突っ込んでいく。おっ、動かない。カニが爪でタコの身を引っ張っているのだ。穴の中のカニは獲れない。穴の入口から10僂らい離してタコを躍らせ穴の外へおびき出す。ほら出てきた。すかさず手でゲット。こんな具合で次々にクーラーボックスに収まったカニは、およそ50匹になった。

 

 

 

 

 

 

 潮が上がるまでの2時間、十分遊んだ。だが、海には誰もいない。平日に海で遊ぶ暇人は島にいないのか。それとも、食べ物はお金で買う時代、シーガン獲りは見向きもされなくなったのだろうか。

 

 

 

 

 

すり鉢で潰して、茹でて出汁をとる。

出汁は味噌汁、天津飯の甘酢ダレほか、濃厚なカニの風味が楽しめます。

 


水争い

 

 ちょっと面倒な話に巻き込まれた。

 

 南方新社は、下田のシラス台地にあるのだが、その下の台地の際からは豊かな水が溢れ出ている。戦前から鹿児島市民に給水してきた七窪水源地だ。

 水源地から谷が開け、私は10年程前からその谷の下の方で田んぼを借りている。当時から、他の田んぼをやっているのは年寄りばかりなので、いつまでもつのだろうと思っていた。

 予想通り一枚、また一枚と作るのをやめ、ついに一昨年、上から5枚の田んぼは全部放棄地になってしまった。

 

 水源地になる前から、上の5枚の田んぼは湧水を引いていた。だから、市が水源地として所有してからも、田んぼのために水を流してくれていた。

 ところがというべきか、やはりというべきか、田んぼ作りをやめてしまったからと市は水を止めてしまった。これに腹を立てたのが、わが町内会長だ。水を以前と同様流してくれるように何度も市にかけあったが、相手にしてくれない。

 水は田んぼに入れるだけでなく、近くの年寄りが野菜や農具を洗ったりしていた。市街地近くで唯一ホタルの乱舞が残る谷でもあった。水の停止と同時にホタルも激減した。

 

 なぜか私は、この谷の耕作者代表として市に申し入れすることになった。私の田んぼは水源地とは別の湧水を使っているのだが、まあいい。とにかく、町内会長が中心になって集めた約200名の嘆願署名を携えて水道局まで出向いた。
 市側は丁寧に対応してくれたのだが、私は4分6分で水を流さない方になると予想した。

 

 一方で、水利権の資料を読み漁った。水源地となる以前から田んぼに水を引いていた。だから住民には水利権がある。慣行水利権というやつだ。だったら田んぼをやればいい。米でなくても何か植えればいい。

 

 私は市が結論を出す前にセリの栽培計画を即席で拵え提出した。というのは、放棄状態の田んぼの隅っこに、セリが元気よく生えていたのだ。
 これで水を流さなかったら、逸失利益の損害賠償請求の裁判に出るまでだ。100%こちらの勝ち。案の定、市は水を流すと回答してきた。

 

 耕作者代表として栽培計画まで出した以上、セリを植えないわけにはいかない。かくして、田んぼで腰を曲げてセリの田植えとあいなった。これまでの田んぼに加え、セリの面倒も見なければならない。

 やれやれ、困ったもんだ。だが、うまくいけば来春、放棄された田んぼ一面セリが覆う。なんて素晴らしい景色。おまけに、セリ鍋という絶品料理にもありつける。ものは考えようだ。

 


雄性先熟

 

 

 事務所のある下田の山沿いの小径に、マルバウツギの白い花房と赤いヤマツツジの花が競演する季節がやってきた。薄暗い藪にはコガクウツギの白い花。

 


いっぱい花房をつけるマルバウツギ

 


赤いアクセントのヤマツツジ

 

薄暗いところが好きなコガクウツギ

 

 

 黄緑色にもくもくと萌え盛る山には、ところどころにシイが白い花を咲かせている。枝という枝に、これでもかと言わんばかりに花をつけるものだから、遠目にはカリフラワーのように見える。


 でも、木は人間を喜ばすために花を咲かすのではない。自分の子孫を残すための健気な行為だ。できるだけ際立つ色で虫を呼ぶ。

 ずっと不思議に思っていたのは、同じ種類の木々が、ほぼ同時期に花を咲かすことだ。てんでバラバラに咲いたのでは、違う遺伝子と交配できない。

 

 植物が話し合うと聞いたことがあるが、なんだかピンとこなかった。最近、ある種の化学物質を出して連絡を取り合っていると知った。花期が近づくと匂いを出す。そのかすかな匂いを嗅ぎ分け、一斉に花を咲かすというわけだ。

 さらに面白いのは、自家交配を防ぐ手立てだ。小学校の教科書なんかでは、花の模式図として、真ん中に雌しべが立ち、その脇に何本かの雄しべが立つ。これでは、虫たちが蜜を吸おうと花の奥に潜り込んだら、同じ花の花粉が雌しべに着いてしまう。人間で言えば、兄弟で子を作るようなもので、強い子はできない。


 だが、実際に花を見ると、雌しべと雄しべが同時に立ち上がることはない。たいてい雄しべが先に立ち、雄しべが枯れるころに雌しべが立ち上がる。雄性先熟という。逆の雌性先熟もある。

 これなら、ちょっと離れた別の木の花粉が運ばれて雌しべに着いてくれるというわけだ。なんて賢いのだと、うなってしまう。


 さらに徹底した種類は、雄花と雌花を別々に咲かせ、それぞれの花期をちょっとずらしたりしている。雄木と雌木を完全に独立させた種類もある。これなら、自家交配の心配はなくなる。

 

 話は戻る。ひとつの花の中の雄性先熟はほとんど知られていないのだが、南方新社からいくつも植物図鑑を出している大工園さんが気づき、種類ごとの雄しべと雌しべの成熟段階を網羅した『植物観察図鑑』を出した。3年前のことだ。画期的な図鑑だと、植物の専門家からたいそう評価を受けたのだが、その後はどういうわけか鳴かず飛ばずだ。

 

大工園認著『植物観察図鑑』

 

 でも、鳴かなくても、飛ばなくてもいい。

 日本で一つ、世界でもおそらく唯一の図鑑を出したということで満足するのが、出版道というものだ。

 

 



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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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