住み着いた謎の獣

 

 6月末は結構忙しかった。知事選に立候補して下さった横山さんの応援であちこち出向いていた。

 普段は外に出ているときに会社から電話が鳴ることはない。長い時間をかける本作りの仕事で、緊急の要件なんてほとんどないに等しいからだ。

 だが、その日は違った。大変なことが起きている、とスタッフの坂元からの電話。2階に積んである布団の真ん中に糞が乗っかっている。廊下には水たまり。それが、酷いにおいだから多分尿だ。電話の興奮した口ぶりから大変さが伝わってくる。

 いつか台所に置いた魚を音もなく咥えて行ったネコだろう。会社に帰ってから、棒を片手に70坪とけっこう広い室内を隈なく回ったがネコはいない。その日、きちんと戸締りして入ってこないようにした。

 だが、翌朝も事件は起きた。また布団の真ん中に糞が置かれていたのだ。廊下の隅っこにも、これまた大量の糞。尿もあちこちに撒かれ、玄関のスリッパは食いちぎられて、20mほど離れた別な部屋に放り出されていた。

 スリッパに残された噛み跡を見ると、キリの先端で突いたようになっている。

 何だ、これは!ネコではない。イタチだ。夜行性のイタチが会社に住み着いてしまったのだ。昼間は、ほとんど本の在庫置き場と化した会社のどこやらに息をひそめ、夜になると我が物顔で走り回っていた。廊下に残されていた糞を見ると玄関に置いてある鶏の餌を食べていることが分かった。

 縄張りを誇示しようと糞や尿をあちこちにして、おまけに酷いにおいがするのもイタチならではだと合点がいった。  なるほどね。今年の梅雨は雨が多かった。このイタチ君、たまたま開いていた玄関の隙間から雨を逃れようと入ってきた。そこには鶏の餌があった。こりゃいいや、お腹もすいていたし、ちょっといただこう。失礼、ちょっと上がります。広い廊下を過ぎて2階に上がると布団が積んである。なかなかいいお家だ。ずっと住まわせてもらおうか。他の連中が来ると餌を独り占めにできないから、あちこちにウンチとオシッコをして、俺の領土だと宣言しよう。昼間は人間がうるさいけど、本の隙間がいっぱいあるから、どこに寝ていようと見つかりっこない。楽園だ。わーい、わい。

 でも、こっちはイタチに事務所をくれてやるわけにはいかない。坂元が注文の本を段ボール箱から取り出そうとしたら、オシッコでびしょびしょの本を掴んでしまったと泣きそうになっていた。けっこうな損害だ。布団も3枚駄目になった。

 さあ、どうしよう?  こんなことに詳しそうな木下君にさっそく電話。「忌避剤があるよ」。ニシムタの在庫を買い占めて、あちらこちらに置いた。今度は戸締りせず、イタチ君が逃げ出せるように夜も玄関を開けておいた。

 あれから2週間、イタチの気配はない。忌避剤の匂いを嫌って、どうやら出て行ってくれたようだ。

 選挙とともに過ぎて行った怒涛の日々だ。


穏やかな営み

 

 この下田の事務所に引っ越してきたのは2005年だから、もう13年にもなる。

 

 400坪近い敷地に大喜びして、すぐさま甲突川べりの木市に、ミカン類の苗を買いに走った。どれも1本2000円。八朔の苗を5本買ったら、1本おまけしてくれたのを思い出す。

 

 その八朔も今では根元の直径が20cmくらいに成長して、たわわに実を実らせている。全部合わせて200個は下らない。1個50円とすると全部で1万円になる。すっかり元は取った。しかも、何にも手をかけることなく毎年実を付けてくれる。ありがたい限りだ。
 秋口から色着くのだが、やっぱり年を越さないと甘くならない。

 

 先日、出版の打ち合わせに来た著者などは、袋一杯収穫して行った。それでもまだ鈴なりだ。もちろん無農薬だから、皮はマーマレードが作れるよと、同行の奥様に話したら、とたんに目がキラキラしはじめた。いかにも嬉しそうだ。

 

八朔が鈴なり

 

 焼酎飲みには、小ぶりなスダチがいい。半分に切って焼酎に絞れば、二日酔いはしない。スダチ焼酎を飲むとき思い出すのは、民俗学者の下野敏見さんと、しこたま飲んだこと。これも10個ほど分けてあげた。

 

 スダチの根元に、フキノトウがいい具合に膨らんでいるのを発見。天婦羅にすれば最高だ。天婦羅、天婦羅、と口ずさみながらフキノトウ探しが始まった。これも、10個ほど持って帰ってもらった。

 

フキノトウ発見

 

 下田に来て2年目に建てたトリ小屋は傾いているけど健在だ。6月に農協から仕入れたオス1羽、メス12羽は、全部順調に大人になっている。台風で吹き飛んだ屋根のタキロンも、すぐに修繕してあげた。いまでは、毎日卵を10個は産んでくれる。


 ついでにトリ小屋を覗いたら5個産みたてがあったので、これもプレゼント。有精卵だ!と感動してくれた。37度で18日保温すればヒヨコが生まれるよと伝えたが、もうお腹の中だろう。

 

オスはメスが餌を食べるのを見守る

 

 今年は暖冬だと言うけれど、季節はめぐり、約束通りミカンは実っている。ニワトリは卵を産んでくれる。小社創業の1994年に比べると、出版の市場規模は半分になったという。確かにうちの会社も、売り上げはだんだん落ちてきて、かつての半分くらいになってしまった。

 

 だからどうした。
 ミカンは実り、フキノトウは芽吹き、ニワトリは卵を産んでいる。客人は取り放題だ。この穏やかな営みの中で仕事ができている。これを幸せと呼ばず、なんと言おうか。


福招く田の神様

 

 南方新社を設立してすぐのころから、誘われて有機農業祭「生命のまつり」の実行委員をやっている。
 今年は11月26日(日)、鹿児島駅裏のイベント広場「かんまちあ」である。32回目だから、けっこうな人気で続いてきたことが分かるでしょ。

 

 私の係は振る舞い酒(焼酎)の番人。もちろん振る舞いながら自分でも飲む。正月以外で、唯一朝から飲んでいい日と決めているから、祭りの終わる4時ごろにはフラフラ。毎年完全に出来上がってしまう。
 タダで思う存分飲めるから、みんなも電車かバスで遊びに行こうね。

 

 それはともかく、この「生命のまつり」には神様がいるって知ってた? 大きなクスノキで拵えた田の神様だ。会場では一番いいところから祭りを監督してもらうのだが、祭りと祭りの間の一年間は、実行委員の持ち回りで預かることになっている。

 

 今、南方新社が田の神様をお預かりしている。毎朝、みんなを玄関前に鎮座している田の神様が迎えてくれる。不思議なことに、預かった実行委員のだれもが「やっぱり、いいことが続くね」と声をそろえる。もちろん、南方新社もいいことが続いている。

 

 

 田の神をお迎えした昨秋以来、出した本はことごとく黒字だ。何冊かは印刷費も回収できない悲惨な結果になるのが常だが、それがない。

 

 小社のスタッフに亀好きな新婚さんがいる。金製の小さな亀を奉納した彼女はめでたく懐妊し、8月無事男児を出産した。これも田の神様のおかげと、彼女はたいそう感謝している。

 

 10月3日には、南日本文化賞という権威ある賞を下さると連絡を受けた。南方新社は創業以来23年間、500点、120万冊の本を出した。よく頑張りました、というご褒美だ。
 11月1日、城山観光ホテルで贈賞式があるという。おっと、こりゃあ大変だ。着ていくものがない。よれよれのブレザーしかない、と思ったけどあったのですね、礼服だ。最近葬式でしか着ないけど、白いネクタイを締めればバッチリですね。

 

 さて、ここだけの話、でも言っていいのかな、なんと副賞50万円も貰えるらしい。みんな、内緒にしててね、取り消されたら困るから。
 9月、台風に備えて会社の雨戸を閉めたら、シロアリがびっしり張り付いていた。放っとけばこの豪邸がやられてしまう。退治しようにも業者に払うお金がない。どうしようかと途方に暮れていたところだ。本当にありがたい。

 

 この福を呼ぶ田の神様、11月26日「かんまちあ」にいるから、みんなもご挨拶してくださいね。きっといいことあるから。



プロフィール

南方新社

南方新社
鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

南方新社サイト

カテゴリ

最近の記事

アーカイブ

サイト内検索

others

mobile

qrcode