福招く田の神様

 

 南方新社を設立してすぐのころから、誘われて有機農業祭「生命のまつり」の実行委員をやっている。
 今年は11月26日(日)、鹿児島駅裏のイベント広場「かんまちあ」である。32回目だから、けっこうな人気で続いてきたことが分かるでしょ。

 

 私の係は振る舞い酒(焼酎)の番人。もちろん振る舞いながら自分でも飲む。正月以外で、唯一朝から飲んでいい日と決めているから、祭りの終わる4時ごろにはフラフラ。毎年完全に出来上がってしまう。
 タダで思う存分飲めるから、みんなも電車かバスで遊びに行こうね。

 

 それはともかく、この「生命のまつり」には神様がいるって知ってた? 大きなクスノキで拵えた田の神様だ。会場では一番いいところから祭りを監督してもらうのだが、祭りと祭りの間の一年間は、実行委員の持ち回りで預かることになっている。

 

 今、南方新社が田の神様をお預かりしている。毎朝、みんなを玄関前に鎮座している田の神様が迎えてくれる。不思議なことに、預かった実行委員のだれもが「やっぱり、いいことが続くね」と声をそろえる。もちろん、南方新社もいいことが続いている。

 

 

 田の神をお迎えした昨秋以来、出した本はことごとく黒字だ。何冊かは印刷費も回収できない悲惨な結果になるのが常だが、それがない。

 

 小社のスタッフに亀好きな新婚さんがいる。金製の小さな亀を奉納した彼女はめでたく懐妊し、8月無事男児を出産した。これも田の神様のおかげと、彼女はたいそう感謝している。

 

 10月3日には、南日本文化賞という権威ある賞を下さると連絡を受けた。南方新社は創業以来23年間、500点、120万冊の本を出した。よく頑張りました、というご褒美だ。
 11月1日、城山観光ホテルで贈賞式があるという。おっと、こりゃあ大変だ。着ていくものがない。よれよれのブレザーしかない、と思ったけどあったのですね、礼服だ。最近葬式でしか着ないけど、白いネクタイを締めればバッチリですね。

 

 さて、ここだけの話、でも言っていいのかな、なんと副賞50万円も貰えるらしい。みんな、内緒にしててね、取り消されたら困るから。
 9月、台風に備えて会社の雨戸を閉めたら、シロアリがびっしり張り付いていた。放っとけばこの豪邸がやられてしまう。退治しようにも業者に払うお金がない。どうしようかと途方に暮れていたところだ。本当にありがたい。

 

 この福を呼ぶ田の神様、11月26日「かんまちあ」にいるから、みんなもご挨拶してくださいね。きっといいことあるから。


向原先生と海に行く


 年が明けても相変わらず慌ただしいのだが、ふと、去年の今頃は青くなっていたのを思い出す。油断して仕事をさぼっていたら、売り上げが大幅に減って、会社の存続も危ないんじゃないの、と思うくらいだった。
 あわてて態勢を整えて、あれから一年、22冊の新刊を送り出した。

 2月刊行の『海辺を食べる図鑑』は順調にはけ、久々に1年のうちに1万部を刷るまでになった。調子に乗って、第2弾、増補版の刊行に向けて、せっせと海に行っては、掲載できていない貝やカニを食べている。30種は追加できただろうか。
 一番のヒットは、赤と白の紅白ナマコ。干上がった岩の上に伸びていたのだが、阿久根の磯に同行した地元育ちの松永さんが「こいつは食べてるよ!」と教えてくれた。実際、恐る恐る食べてみたら、これがまた、うまいのなんの。図鑑で見たら、アカオニナマコという、ちょっと怖い名前だったけどね。

 「海のもので、食べられないものはない」

 これは基本だが、動かないもの、動かないものを食べるものは、要注意だ。
 ナマコの仲間はたいてい海の底に無防備に転がっている。そのままなら、敵に発見されてあっという間に食い尽くされてしまう。だけど、食い尽くされないのは、たいていのナマコは毒(サポニン)を持っているから。

 もう一つ。ウミウシの仲間も、近寄らない方がいい。のろのろ動くので簡単に掴まえられるが、岩に張り付いているカイメンを食うやつがいる。カイメンの毒を体内にため込んで、身を守るというわけだ。だが、このウミウシを食べたら酷い目に合う。ここだけの話、私も、ヤマトウミウシなんていうのを食べて、1回、吐き気と下痢で酷い目にあった。
 もっとも、ウミウシの仲間でうじゃうじゃいるアメフラシは、昔から韓国や壱岐では食べているというし、かの昭和天皇も3回食べたというのは有名。あまりおいしくはないし、たくさんいるから、毒なんか持たなくていいということか。



 この『海辺を食べる図鑑』を手に取った宝島社の『田舎暮らし大募集』が昨年夏に取材に来て、「海の達人」という特集を組んだ。最近では、農文協の編集部が「向原先生と子どもの、海辺を食べる野外学習」を企画してきた。ちょうど、社員の子どもに小学生がいたから、ホイホイと応じた。この連載もこれから始まる。
 これで大手を振って海に行けるというものだ。でも、食べ物獲りに行くのが学習だなんて、それだけみんな海から遠ざかっているということだね。

禍福はあざなえる綱のごとし


 小社は出版社であるが、例えば年に一度の有機農業祭である生命のまつりなんかに出店している。
 そんなとき、最近では本を陳列する台の前に「自然とともに生きる 南方新社」と大書きした旗を飾る。黄色に赤、目立つ旗がとても気に入っているのだが、悩ましい事件があった。



 この旗、もとは新入社員・大内の父君が厚紙で作ってくれたものだった。それを、持ち運びが便利なように、布製にしようと思い立ったのだ。

 旗作りをしている高校の同級生に、予備を入れて3枚作ればいくらになるか、見積もりを頼んだ。3〜5枚で1万5千円とFAXが来た。原版を作って布に印刷するわけだから、3枚でも5枚でも手間は変わらない、なんて良心的なんだ、と、3枚あれば十分だったのに、「お言葉に甘えて5枚」と、言葉を添えて返信した。

 1週間ほどで送られてきた5枚の旗を開いて大満足。スタッフともども、わいわい騒いでいた。ところが、同封されていた請求書を見て、目が点になった。8万1千円!
 単価が1万5千円の5枚で7万5千、プラス税とある。こちらはてっきり全部で1万5千円と思っていたからショックが大きい。慌てて見積書を見返してみると、確かに3〜5枚、1万5千円とあるのは単価の欄。なんてこった。早とちりだ。同級生に電話をして事情を話したが、負けてくれたのは5千円ぽっち。ガックリ。

 それから坂を転げるように散財が続いた。パソコンが壊れて14万、車が故障して5万、単車もパンク。麻雀では大負け続き。旗事件からわずか20日ほどの出来事だった。

 だが悪いことも長続きはしない。ショックが和らぐとともに運気も上がっていった。

 先ず麻雀の負けを取り戻す大勝が、3回続けて来た。次いで夏過ぎに出した『原発に侵される海』が南日本新聞の書評で紹介された。書いてくれたのは、京大教授の加藤真氏だ。お会いしたことはないが、小社刊の本にもしょっちゅう登場してくれる大御所だ。「原発の温廃水が海の環境に与える影響について詳述したほとんど唯一の書籍である」と、こちらの一番言いたいことを書いてくれている。

 数日後には、これも辺野古沖の世界的生物多様性を写し撮った本『大浦湾の生きものたち』が、朝日新聞の夕刊1面トップで紹介された。注文が増え正月前にいいお年玉になったと喜んでいたら、そのまた数日後には、なんと朝日新聞の社説に紹介された。


 これほどの振れ幅は経験したことがない。縄ではない。禍福はあざなえる綱の如し、だ。

  


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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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