耳鳴り

 

 ジ……ジ……ジ……。このセミの鳴くような音が1週間前からずっと聞こえている。最初は電気の音かと思ったが、外でも聞こえる。そうか、これが耳鳴りか!初体験だ。
 原発の会議に最近メニュエル病でひっくり返った人が来ていた。会が終わってから、耳鳴りのことを話したら、すぐに耳鼻科に行け、と真顔で言う。サラの赤星さんは、「俺の知り合いは、放っておいたら、本当に聞こえんようになったぞ」。周りの何人かも、口を揃えて、それは大変、すぐ行け!
 すっかり脅されたもんだから、翌朝、草牟田の飯田耳鼻科へ飛んで行った。
 昨年、蓄膿で行ったときはワンサカ患者がいて、ずいぶん待たされたものだが、閑古鳥が鳴いている。コロナだ。
 すぐに通されて、診察が始まった。耳の中を覗き込んで、「あっ、きたな」と言いやがった。余計なお世話だ、おいらは耳鳴りの治療に来たんだ、とは言わない。大きいのをピンセットでホイホイと取って、後はミニチュアの掃除機で吸い込んでいく。うん、きれいになった、と先生も嬉しそう。
 さて、聴力検査。右耳、左耳、順にやったが、よく聞こえていますねー。63という歳の平均よりずっと成績がよかった。結局、耳鳴りと気長に付き合いなさいね。つまり、放って置けということですね、と聞くと、そうです、と返ってきた。何だかほっとした。
 耳鳴りと難聴が同時にあったらやばいらしい。こいつは2週間以内の治療開始が聞こえなくなるかの境目。皆さん注意してね。
 ときに耳鳴りはストレスが原因ともいう。そういえば、この1週間、決算でずっとパソコンの数字とにらめっこしていた。何せ、550点も出しているから、その1点1点の在庫、つまり資産の計算をしなくちゃならない。とっても面倒。数字がよかったらまだましだが、これも酷い。3月の売り上げは前年比40%ダウン。ついでに言うと、4月も40%、5月は60%ダウンの体たらく。コロナだ。
 3月以降、都市圏の書店はほぼ全滅。図書館も休館しているから入れてくれない。アマゾンのネット書店は、実入りのいい他の商品にシフトして、南方新社だけでなく、どの出版社も売れ筋の本は軒並み在庫なし(仕入れていないということ)の表示。頼みの奄美の土産物屋も、市長が観光客は来るな、と言っている。八方塞がりだ。
 最初、コロナ騒ぎを、下田の田舎から高みの見物とせせら笑っていたが、こんな所までやってきた。やれやれ。
 仕方ないから、今じゃ、せっせと畑に植える作物を増やし続けている。オクラに大根、ヘチマにキュウリ、ニガゴリ、ルッコラ、チンゲンサイ……。


真夜中の騒動

 

 前々回だったか、魚の良し悪しくらい自分の目と鼻で確かめろ、と書いた。魚食いのプロを自認する私だが、ついにへまをやらかした。
 先日の日曜日、アラカブ釣りの餌を買おうとスーパーに立ち寄った。目指すキビナゴはなかったが、その代わり刺身用とシールを張った丸々と太ったサバが売られていた。一本380円。目は澄んで黒々としている。こっそり腹を押したが固い。こりゃいいやと大喜びで買った。
 釣りの餌はイカゲソで代用したが、これも大釣り。釣りたてのアラカブの味噌汁とシメサバの豪華な晩飯が目に浮かぶ。
 帰宅してサバの腹を開いた。内臓もしっかりしている。古いやつは腸が破けてドロドロだったりする。これなら大丈夫。三枚におろして、塩を振って30分。しみでた水けを拭き取って酢に浸ける。はい、1時間で立派なシメサバの出来上がりだ。
 皮を剥いで、刺身に切り、ワサビと醤油で食べる。旨い。次々と腹に収まっていく。脂も乗って最高だ。と、身に糸くずのようなものを発見。おっ、これは。アニサキスだ。危ない、危ない。指できれいに取り除いて、潰してティッシュで拭いて、と探したが、目の前にティシュはない。まあいいやと口の中にパクリ。片面をきれいにたいらげ、残りの片面は明日の楽しみ。
 満足、満足、と床に就いた。
 食べて2時間後、最初の異変で目が覚めた。何だかむかむかする。吐きたいけど、もったいない、気のせいだ、そのうち治まるだろうと、何とか眠りについた。また、その2時間後。今度は手の平の異様なかゆさで目が覚めた。かゆい、かゆい。そうこうしているうちに、腹や胸、背中までかゆくなってきた。しまいには足の先から頭のてっぺんまでかゆい。こりゃ、たまらん。
 腹を見たらポツリポツリ、蕁麻疹が出ている。えらいこっちゃ、サバに当たった。しかもアニサキスだ。口に入れたのがまずかった。糸くずのような子虫が目に浮かぶ。
 あわてて着替え、ぼりぼり掻きながら夜間救急診療を探し始めた。さあ、カッコ悪いけど行こう、と思った時、かゆみが治まり始めているのに気が付いた。およそ1時間の騒動だった。
 翌朝、蕁麻疹は引いていたけど、なんだか胃がしくしくする。潰したやつのほかにも、何匹か飲み込んだようだ。これはネットで調べた正露丸で退治した。主成分のクレオソートが虫のやる気をなくすという。
 ちなみに、アニサキスは虫のかけらでもやばいらしい。恐るべき子虫だ。だけど、ああ、旨いシメサバが食いてえ。のど元過ぎれば、だ。 


自分の五感くらい

 

 このところ連日セリを食べている。
 以前書いた水騒動で作る羽目になった田んぼのセリが順調に育っているのだが、その田んぼの畦が壊れてしまった。直すのに重機を入れるという。セリが押し潰される前に、出来るだけ食べようというわけだ。セリの主役は葉っぱではなく茎や根っこだということを初めて知った。
 葉っぱの見かけは華やかだが、火を通せばクシュンとなる。風味が強く満足度が高いのは茎と根っこなのだ。
 それはともかく、今回は魚の話。
 反原発の運動に関わっていいこともある。南方新社に月に1回か2回、四国伊方原発の近所の住人・井出さんから魚が送られてくる。それも、はらわたとウロコをきれいにとった段ボールひと箱分である。彼は魚の仲買の仕事をしているから、見込み違いで売れ残った魚なのだろうけど、魚好きの私にとってはありがたい話だ。
 先日、私の留守中に届いた魚が、親戚にまでお裾分けされていた。親戚だから気安く聞いてきたのであろう、その夜電話が来た。「もらった魚は、刺身で食べられますか」と。
 魚が来たのは私の留守中だったから見ていない。だから「目が澄んで、身が固かったら大丈夫。ちょっと臭かったら止めたらいいし、食べてみてウゲッときたら吐き出すだけだ」と答えた。普段なら、何にも気にせず親切に教えるのだけど、だんだん教えるのが悲しくなってきた。
 ちょっと待てよ。彼は40過ぎの高校教員である。親戚の教員なら食べ物の良し悪しくらい、自分で判断してほしいもんだ、と。
 たしかに、魚に消費期限は書いてないし、刺身用とか煮物用とかのシールも貼ってはない。だけど、スーパーなんかでシールを貼るのは人間だ。商売のリスクを加味しながら、その人の勘で貼るに過ぎない。だいたい見れば分かる。触ったらなお分かる。匂いを嗅いだら決定的に分かる。
 草刈り機やチェンソーを動かすとき、それが初めてなら人に聞いたり説明書を読んだりしなければならない。だけど、機械と違って、人間が生きていく上で一番大切な食べ物である。たかが魚、ではないのだ。それを40年も生きてきて、自分の五感である視覚、触覚、嗅覚、味覚を信じないで何を頼ろうというのか。
 茨木のり子の詩「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」を言い換えるなら、「自分の五感くらい 自分で磨け」である。
 願わくは、彼には、テストの成績ではなく、子どもの目の輝きを見てこの子は大丈夫だとすぐに分かる教員になって欲しい。



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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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