わらしべ長者

 

 昨年4月、会社の庭に入居したニホンミツバチ。あれから1年余りたち、5段重ねの重箱式の巣箱に入りきれなくて、入口にたくさん群れている。
 ハチは上から下に巣を伸ばしていく。中を覗いてみると、一番下の段まで巣は伸びている。


 ハチミツの収穫時期だ。これなら上2段は採れそうだ。近所の橋口さんに手伝ってもらうことにした。
 7月9日土曜日の朝9時集合。カッパに手袋、網付きの帽子と、重装備で臨んだ。
 箱を止めてあるガムテープを剥いで、天板を外し、箱と箱の間に薄いヘラ状の器具で切れ目を入れる。最後は細い針金で巣を切断する。こうして、ミツのいっぱい詰まった巣2段分を確保した。この間、約一時間。でも汗だくだ。
 巣を取り出して、包丁で切れ目を入れると、ミツがどんどん流れ落ちて来る。あっという間に、4kg確保できた。舐めてみると、やっぱりうまい。以前採ったハチミツを、お客さんに大匙で舐めてもらったら、「鳥肌が立った」と最大級の褒め言葉をもらったのを思い出した。

 

 1kgの大瓶は橋口さんへの分け前。いつも昼ご飯を食べさせてくれるよしみ食堂の奥さんには小分けにした小瓶一つ。会社の斜め前に草取りをしていた年寄りがいた。以前、畑の世話をしてもらったことがあるから、また小瓶ひとつ。
 あちこちに配ったら、お返しにキュウリ、トマト、ナスなどの夏野菜が山盛り届いた。ニガゴリの漬物もいただいた。まるで、わらしべ長者だ。


 考えてみると、このハチミツは私が集めたわけではない。夜明けのまだ私がグウスカ寝ているときから日が沈むまで、ハチたちがせっせと集めたものだ。一匹のハチが集める量は小さじ半分ほど。ハチの寿命はせいぜい一カ月。大変な苦労のたまものだ。有り難いことこの上ない。
 会社は七窪水源地の真上の高台にある。水源地だから滅多に木が伐られることはない。ハチの飛ぶ範囲は2km。会社の半径2kmにこの水源地の森があってこそだ。あらためて森の大切さを思う。

 

*7月8日、安倍元総理が銃撃された。国葬などという声も上がっている。2015年8月11日、国内の全原発が停止している中、九州電力川内原発1号機の制御棒が抜かれ、再稼動した。この最高責任者が当時の総理、安倍氏である。統一教会とグルになるなどもってのほかだが、原発の稼働に反対する県民として、国葬など許されない、と言っておきたい。

 


重箱式の巣箱。上2段とって、下3段を継ぎ足して6段になった。

 


ミツのたっぷり詰まったハチの巣

 


ハチミツ1kg


小さき者たちの世界

 

 先々週の日曜日、天気が良かったので田植え前の畦の草刈りにあてた。
 8割がた終わったところで、草刈り機のエンジンがかからなくなり中止。余った時間で、田んぼの隣の畑にオクラとインゲンの種を植えた。
 草刈り中は何ともなかったが、座り込んで草をむしっていると、どこにいたのかブヨが大集合してきた。以前、耳たぶを嚙まれ、長い間痒くてたまらなかった。タオルで頬かむり。暑いので長袖を腕まくりしていたら、ブヨが止まった。パシリ。叩いたから大丈夫。また止まった。パシリ。何とか二畝終わった。

 一週間もすれば芽が出るだろう。満足、満足。汗を流して気持ちいい。いい一日だったと作業を終えた。

 

 異変は翌朝起きた。いつもは8時9時までぐっすりなのに、まだ薄暗い朝の5時前、痒くてたまらず目が覚めた。眠りながら両腕を搔きむしっていた。掻けば掻くほど痒くなる。こりゃ、たまらん。見ると、20カ所以上ぷっくり赤く膨れている。おー、かいかい。

 

 蚊も刺されたら痒いけど、ブヨはその何倍も痒い。何故か。疑問がわいた。きっと毒の成分が違うのだ。調べてみると案の定だった。
 蚊は、細い口で人間に気付かれないように肌を刺し、食事中(吸血中)血が固まらないような成分を出している。だから、お腹いっぱい吸えるというわけだ。
 ブヨは皮膚を食い破って血を吸う。だけど、私は20カ所以上嚙まれたのに全く気が付かなかった。ブヨの毒の成分は麻酔作用がある。だから気が付かなかったのだ。なるほどね。
 もっとも、「毒」というのは、それによってアレルギー反応を起こして勝手に痒くなる人間の勝手な決めつけ。蚊もブヨもゆっくり食事をするために工夫しているだけのことなんだ。

 

 もう一つの疑問もあった。人の余り行かない谷だ。普段は何を食べているのか、というもの。
 ネットでは、ほ乳類や鳥類の血を吸っているという。タヌキやウサギなんかだ。みんな固い毛で覆われている。だったら、人間の髪の毛に潜って頭を嚙んでもいいはずなのに、そうではなかった。私が嚙まれたのは、腕の下の白く柔らかそうなところばかり。
 散々調べたら、やっとありました。血を吸うのは産卵前のメスだけで、普段は花の蜜を吸っているという。なるほど、卵を作るための栄養だから一生に一度吸えばいい。人間相手なら、私がブヨでも、髪の毛をかき分けるより、柔らかそうなところを選ぶ。


 自然の世界は知らないことばかり。痒い思いをして、また一つ不思議な世界を垣間見た。

 

ブヨに刺されたのは柔らかいところ

 

ブヨは、きれいな水の流れに生息。この谷も、七窪水源地の湧水が流れる

 


冬枯れの景色

 

 12月18日、川内1号機が定期点検を終えて再稼働した。単なる定検ではない。この定検で、九電は20年の運転延長のデータを集めていた。

 

 2024年7月に40年寿命を迎える1号機。九電は、この数年間で何千億もの追加投資をしている。今でもぬけぬけと、20年運転延長の申請をするかどうか分からないと言っているが、来年の夏ごろには申請するに違いない。来年は、この問題がヤマ場を迎える。本作りもしなければならないのに、また忙しくなる。
 全く迷惑な話だと、ぶつぶつ言いながら、朝早くにこの再稼働の抗議に向かったのだが、道々冬枯れの風景に眼を奪われた。息をのむ瞬間だってある。

 

 川内に向かう南九州自動車道は森を拓いて造っている。道路沿いの土地は痩せているのでススキが列をなして生える。銀色に膨らんだススキの穂が、朝日に光って何とも美しい。
 道の両側の削った崖は、急に日当たりがよくなって陽樹が一斉に芽吹く。大喜びだ。イヌビア、アカメガシワ、アオモジが、それぞれ好みの場所に群れている。10年もたてば立派な成木。葉っぱはこの時期、鮮やかな黄色に染まる。

 

 そういえば、これらの樹は、鹿児島ではどこにでもすぐ生えるので昔から重宝されてきた。イヌビアの実は子供の頃おやつにした。田舎のウッガンサア祭りのとき、持参した新米ご飯と米粉で作った団子を神様に食べさせるのも枝で作ったお箸だ。アカメガシワの葉は、団子を包んだ。葉を落としたアオモジは、1、2月になると蕾を付ける。実の花といって冬場の貴重な墓花になる。

 

 真っ赤な彩を添えるのは同じ陽樹のハゼだ。モミジのない鹿児島の平野部で赤くなるのは大抵この木だ。
 日当たりの良い森の際では、クズやヤマノイモ、カラスウリなどの蔓植物が、元気よく森の樹にとりついていく。森は暗いところを好む陰樹で構成される暖帯照葉樹林だ。だから、冬場も葉は落さず緑色のまま。樹冠にまで達した蔓植物も黄色くなる。緑の樹々が、まるで黄色の髪飾りやカーデガンを纏っているようだ。
 シイやタブの照葉樹林の中に赤と黄の中間の色を見せるのは、同じ陽樹だが入り込むのが遅く森が暗くなってもしぶとく生き残る、コナラやヤマザクラだ。

 

 3月になれば、森の中にポッ、ポッと白い明かりをともすのはこのヤマザクラだ。
 およそ1時間、同乗者と森や樹の話をしながら川内原発に向かう道のりは、実は、季節ごとにこんな楽しみを与えてくれるのだ。

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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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