辺野古の海図鑑


 米軍基地の移設で、日本中の注目を集める辺野古だが、戦争への加担や沖縄の基地負担とは、別の角度からこの基地建設を心配する人たちがいる。

 辺野古では、海を大きく埋め立てて滑走路を造ろうとしている。では、埋め立てられる海はどんな海なのか。ジュゴンのえさ場がなくなるとか、サンゴが折れたとか話題になるが、それだけではない。辺野古の北の大浦湾は、世界でも有数の生物多様性の重要地点なのである。
 周辺の山は開発を免れ、栄養に満ちた川の水が湾に流れ込む。マングローブ、砂浜、磯と、海岸線は多様な姿を見せる。海の中も深いところは水深60メートルもあり、浅場から深場まで起伏に富む。
 ここには、最近発見された新種や、まだ名前のついていない生きものも数多い。3メートル以上もあるナマコが未記載種なのには驚かされる。
 昨年11月には4000人の会員をもつ日本生態学会をはじめ、藻類、魚類植物、昆虫、鳥、動物など各分野の19学会が連名で、基地建設の見直しを防衛大臣に提出した。
 湾全部を埋め立てるわけではないが、諫早湾の干拓が海流の流れを変え、有明海全体に影響を与えたように、大浦湾の生きものに、壊滅的なダメージを与える可能性は極めて高い。

 8月刊行予定の『大浦湾の生きものたち』(本体2000円、帯タイトルは辺野古の海図鑑)は、地元のダイビングチームの撮影した生きものたちが、ずらり670種登場する。ページをめくるたびに息をのむ。
 オヒルギ、メヒルギが林立するマングローブのそこかしこに、オキナワアナジャコの塚が大きく盛り上がっている。
 ベニシオマネキの真っ赤な甲羅のなんと美しいことよ。
 ユビエダハマサンゴの巨大群集は、人知れず何百年の時を、そこで刻んできた。群れ集う魚たちとともに。
 ウミウシのページには、青、赤、黄色、色とりどりの125種が一挙に掲載されている。
 口内保育をするネンブツダイの仲間が群れをなし、ある場面ではガンガゼウニの針の間にたたずんでいる。魚にくっついた寄生虫の仲間まで収める念の入れようだ。

 私たちは、これまであさはかな開発行為によって、生きものたちの棲み家を潰し、美しい風景を台無しにしてきた。今、この辺野古の海もまた、危機にさらされている。
 この本を手に、辺野古の海をいつも頭に描いてほしい。そして、「私たちを殺さないで」という声なき声を聞いてほしい。


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