山で足すべし


 先日の寒い朝、会社に行く途中のこと。田んぼの中に伸びる小道のずっと向こうに、中腰の人影のようなものが見えた。気のせいかと首をかしげていたら、やがて藪の脇から立ち上がって歩き始めた。
 バイクで近づくと、60代とおぼしき女性がズボンをずり上げている。そうか、小便をしてたんだ。散歩の途中に冷えたんだね、きっと。久々に出会った懐かしい光景に、ほんわり温かくなった。

 最近、道の脇で小便をしている姿を見ることはない。私らの小学生の頃は、女の子でも堂々と道端に座り込んで、白いお尻をこちらに向けていたものだ。いつの頃か、そんな子供たちも姿を消した。

 南方新社では、度々庭でバーベキューをする。ビールや焼酎をたらふく飲むから、もよおす回数も多くなる。食べられない鶏やカモの骨をそこいらの山に放るように、だだっ広い庭の隅っこで用を足せばいいのに、女性ならともかく、男もトイレのありかを聞いてくる。「大か」と聞くと「小だ」と言う。おまけに、庭ではできないという。
 たいてい夜だから、庭でしても誰にも見えないし、ほんの数分で片付くのに、わざわざ玄関に回って、靴を脱いで上がっていく。時間もトイレの水も、無駄というもの。何とも不思議でならない。

 確かに、家の門や塀に小便をされたら不愉快だ。目撃したら「やめろ」と文句をつける。街中のコンクリートの上も、いつまでも跡が残るし、匂いも付きそうだからやらない。
 だけど、庭の隅っこの藪の陰や、アスファルトが塗られていない田舎のあぜ道なら、すぐに吸い込まれて跡形もなくなる。何の問題もない。

 会社の若いスタッフは軽犯罪だという。気になったから、ちょっと調べてみると、条文には「街路または公園その他公衆の集合する場所」での立ち小便とある。ほらね。あぜ道を街路という人はいないだろうし、庭の隅の藪の陰を公園だという人もいない。ましてや、人なんかいないしね。
 つまり、この法律は都会の法律であって、田舎には関係ないということ。

 何年か前に、南大隅の辺塚に町長が核のゴミ捨て場を誘致するという騒ぎがあった。地元の自然を守る会の呼びかけに応えて、土日の度に、山の中の集落にビラ配りに出向いた。もちろん、コンビニや公衆トイレなんてそこらにないから、やむなく女性軍も山で用を足していた。だけど、何回か山の中で足すうちに、「開放感がたまらん!」と大喜びで山に入っていくようになった。

 そうだ、人たるもの、山で足すべし!なんだ。


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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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