山からのご褒美


 一年で一番好きな季節がやってきた。この下田の事務所の周辺の山は、木々が一斉に芽吹いている。
 普通に言えば黄緑色なのだが、やはり、「萌黄色」と自然に口をついて出てくる。

 芽吹いているのは、冬の間、葉を落としているハゼやイヌビアだけではない。葉を付けていたクスやクロガネモチは、この時期古い葉を落として若葉に入れ替わる。硬い緑の葉をまとっているようなカシやシイの木でさえ、枝の先に新しい葉を付ける。
 全体には萌黄色なのだが、赤っぽいのもある。林縁が好きなシロダモの若葉が、ことのほか主張している。ヤマザクラの若葉も赤い部類だ。
 濃い緑の安定感と、それを覆う萌黄色の勢いの良さ、そして、そこかしこに垣間見える赤い色。この多様なモザイク模様は、一年にこの季節だけの、山からのご褒美だ。

 白い花も目に付く。日当たりのよいところにある白い花の群落はノイバラだ。木陰の小さな白い花の塊はマルバウツギ。やがてコガクウツギに主役を交代する。光沢のある広い葉っぱの中に小ぶりのアジサイのように咲く白い花はハクサンボク。花の一つ一つを近くでよく見ると、精密な設計が施されていて、「白い花」と、ひとくくりにするには惜しい。
 そんな中で、アクセントをつける朱色のヤマツツジと、山の木の上に、豪華な青い髪飾りのようなヤマフジを見つけたら、得した気分になる。

 ちょっと郊外に出て、そこらの山を一回りするだけで、いろんな発見が待っている。
 ちょうど連休明けには、『野の花ガイド 路傍300』が出来てくる。自然の中に、もう一歩深く入って行くための、いい道案内になってくれるに違いない。

 そんなある日、知人から一本のメールが届いた。ぜひ聞いてほしい歌があるという。
 「花は咲けども」という歌だ。

   原子の灰が 降った町にも
   変わらぬように 春は訪れ
   もぬけの殻の 寂しい町で
   それでも草木は 花を咲かせる
   花は咲けども 花は咲けども
   春を喜ぶ 人はなし
   毒を吐きだす 土の上
   うらめし くやしと 花は散る


 植物は、構造が単純なだけに簡単にはへこたれない。だが、人間だけでなく、花を喜び受精に大切な役割を果たす虫たちは、いち早く姿を消していく。喜びの季節ではあるが、福島の静かな春を思わざるを得ない。

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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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