西郷ドン万歳大会

 

 街は西郷ドンで溢れている。クリスマスとともに中央駅近くの高見橋に電飾付きの変なオブジェができた。よく見たら明治維新150年とある。西郷ドンの妙なイラストを今年一年見なければならないのか。やれやれ。

 

 市立病院跡地に大河ドラマ館ができたのはいいとしても、指宿や南大隅まで西郷さあ展示館ができている。
 自治体が少しでも観光客を呼び込もうと流行りにあやかり、商売人が少しでも売り上げを伸ばそうと西郷ドン商品を作るのは当然のことだろう。

 

 だが、調子が狂うのは、テレビや新聞などの報道機関がこの流れを、諸手を挙げて後押ししているように見えることだ。正月が明けて、この1月の下旬まで、地元新聞に「西郷ドン」の記事が途切れることはない。三つも四つも連なっていることさえあった。

 

 150年の節目の年だ。しかも大河ドラマもある。この年に、維新そのものや重要人物を検証するのは大いに結構なことだ。だが、検証することと無批判に追従することは別だ。
 官と民、報道も加えた、こうも翼賛的な、西郷ドン万歳大会が展開されると、私は気持ち悪くてしょうがないのだ。かつての世界大戦突入時にも、きっとこの翼賛的な熱狂ぶりがあったのだろうと思う。

 

 辟易していたところに、一文が目に留まった。文芸春秋2月号のコラムである。西郷を総大将に鹿児島士族が一丸となって決起したように思われている西南戦争だが、そうではなかった。「西南戦争に反対した鹿児島士族」というタイトルが付されたそこには、川内育ちの田中直哉が登場する。

 

 戦争になれば、政府軍の主力を占める鹿児島出身の人間と、薩摩軍が同士討ちすることになる。多くの犠牲は避けられない。何とか戦争を避けられないかと帰郷し、私学校党に与しないように説得して回った。だが、田中は、警視庁から派遣されていた本物の密偵らとともに「密偵」として捕らえられ、西郷暗殺の意図ありと捏造された供述書に、無理やり母印を押されてしまう。この架空の暗殺計画が西南戦争を引き起こす口実となったわけだ。

 

 コラムは慶応大学の小川原正道教授によるものだが、純心女子大学の尾曲巧教授の論文「田中直哉」『新薩摩学9』(南方新社)からの引用があった。おっ、南方新社だ。論文を読み返して改めて尾曲氏の冷静な視点に舌を巻いた。曰く、
 「西郷は鹿児島で軍事政権化、士族支配体制を復活し、中央政権を打倒したのち、鹿児島同様の士族支配体制を全国展開しようと意図していた」
 おー、くわばら、くわばら。北朝鮮もびっくり。歴史への見事な逆行だ。

 


尾曲巧氏の論文「田中直哉」を収録する『新薩摩学9 知られざる近代の諸相』

 


『近世・奄美流人の研究』出来
POPも作りました。


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