島に棲む

 

 先日、出版社から直接「中央公論7月号」が送られてきた。
 うちの本の紹介でもしてくれたのかな、とめくっていたら、ありました。「この科学本が面白い」というコーナーに、出したばかりの『島に棲む―口永良部島、火の島・水の島―』の書評が載っていたのです。評者は山極寿一氏。

 

 科学本かどうかは別にして、この本は文句なしに「面白い」。生きるということは、なんて彩り豊かで、心躍らせるものなんだと再認識させてくれる。私が多言を弄するより、山極氏の唸るような文章を下に引用する。

 

 「(略)貴船庄二さんと裕子さん夫妻は団塊の世代である。東京の武蔵野美術大学で知り合い、学生結婚した。一九六〇年代の終わり、東京には高度経済成長期の社会を問い直す嵐が吹き荒れていた。多くの日本人が歩もうとする道を拒絶し、貴船さんは生の暮らしを模索する。汲み取り作業員、焼き芋屋、サンドイッチマンなど、あらゆる職業を転々とするうちに長女と長男が生まれ、家族で住むのに適した土地を求めて日本列島を渡り歩いたあげく、口永良部島にたどり着く。(略)

 

 口永良部島はそうした工事漬けの影響をあまり受けなかった代わりに、何でも自分で作り出さなければならなかった。山で竹を切って海岸の砂で磨き、乾かして釣竿を作る。餌は海岸の岩場にごまんといるフナムシだ。それでオウムのような口をしたブダイが面白いように釣れる。イカを釣るには、浮力が強く光を反射する木を選んで餌木を作る。ヘミングウェイの『老人と海』に登場するようなオジイとイカ釣りを競う話は圧巻だ。

 

 やがて、貴船さんは廃校に残された材木を使って自らユースホステル(後に民宿として開業)を建てる。資金はない。土地を借り、材料を集め、人を募り、何年もかけて作り上げる過程は、家を建てるというのは本来こういうものなのだということを教えてくれる。
隣人とは何と愛おしく、そして厄介なものであることか。わずか百数十人の無医村で、荒ぶる自然と付き合いながら子どもを産み、育てていく暮らし。そこには私たち研究者が見逃している自然へのまなざしがある。屋根を吹き飛ばす台風の襲来、高波による難破、火山の噴火、島の老人に訪れる死、思わず息を吞むような緊張感と解放感が伝わって来る。(略)」

 

 貴船庄二さんは、本が出来上がった直後に逝去された。フナムシを餌に、リールを使わず、竿と糸と針だけのハジキ釣りに連れて行ってもらいたかったが、もう叶わない。だが、私にとっての勇者の記録は残った。

 

  

 


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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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