水争い

 

 ちょっと面倒な話に巻き込まれた。

 

 南方新社は、下田のシラス台地にあるのだが、その下の台地の際からは豊かな水が溢れ出ている。戦前から鹿児島市民に給水してきた七窪水源地だ。

 水源地から谷が開け、私は10年程前からその谷の下の方で田んぼを借りている。当時から、他の田んぼをやっているのは年寄りばかりなので、いつまでもつのだろうと思っていた。

 予想通り一枚、また一枚と作るのをやめ、ついに一昨年、上から5枚の田んぼは全部放棄地になってしまった。

 

 水源地になる前から、上の5枚の田んぼは湧水を引いていた。だから、市が水源地として所有してからも、田んぼのために水を流してくれていた。

 ところがというべきか、やはりというべきか、田んぼ作りをやめてしまったからと市は水を止めてしまった。これに腹を立てたのが、わが町内会長だ。水を以前と同様流してくれるように何度も市にかけあったが、相手にしてくれない。

 水は田んぼに入れるだけでなく、近くの年寄りが野菜や農具を洗ったりしていた。市街地近くで唯一ホタルの乱舞が残る谷でもあった。水の停止と同時にホタルも激減した。

 

 なぜか私は、この谷の耕作者代表として市に申し入れすることになった。私の田んぼは水源地とは別の湧水を使っているのだが、まあいい。とにかく、町内会長が中心になって集めた約200名の嘆願署名を携えて水道局まで出向いた。
 市側は丁寧に対応してくれたのだが、私は4分6分で水を流さない方になると予想した。

 

 一方で、水利権の資料を読み漁った。水源地となる以前から田んぼに水を引いていた。だから住民には水利権がある。慣行水利権というやつだ。だったら田んぼをやればいい。米でなくても何か植えればいい。

 

 私は市が結論を出す前にセリの栽培計画を即席で拵え提出した。というのは、放棄状態の田んぼの隅っこに、セリが元気よく生えていたのだ。
 これで水を流さなかったら、逸失利益の損害賠償請求の裁判に出るまでだ。100%こちらの勝ち。案の定、市は水を流すと回答してきた。

 

 耕作者代表として栽培計画まで出した以上、セリを植えないわけにはいかない。かくして、田んぼで腰を曲げてセリの田植えとあいなった。これまでの田んぼに加え、セリの面倒も見なければならない。

 やれやれ、困ったもんだ。だが、うまくいけば来春、放棄された田んぼ一面セリが覆う。なんて素晴らしい景色。おまけに、セリ鍋という絶品料理にもありつける。ものは考えようだ。

 


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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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