大雨とスッポン

 

 7月3日、朝から降り続く大雨だ。鹿児島市は全戸59万人に避難指示を出し、県内では100万人を超えた。
 市内の小中学校と幾つかの高校は休校となって、早々と翌4日の休みも決めた。ついでに、南方新社も明日は休みにしようと言うと、スタッフからたいそう喜ばれた。
 6時きっかりに帰るスタッフをしり目に、だらだらと仕事をしていると、この大雨の最中、橋口さんからの電話だ。下田、川上で何ヘクタールもの田んぼをこさえる大農家だ。稲荷川の中流が溢れ、田んぼに泥水が流れ込んでいるというニュースが流れていた。咄嗟に、応援要請かと身構えたが、何のことはない。「大きいスッポンが獲れたから、食べるならあげるよ」と来た。川に棲むスッポンが、田んぼに迷い込んだようだ。
 大喜びで貰い受ける返事をした。
 翌朝、雨は大したことはない。市電も市バスも通常通り運行している。学校以外に休みにしていたのは、南方新社だけだったかもしれない。
 まあいいや、とにかく休みだ、と布団に潜り込むと、町内会長からの電話。私の田んぼが大変なことになっているという。
 こりゃ、一大事。小雨の降る中バイクを飛ばし早速駆けつけた。崖が崩れ、田んぼに木々が雪崩れ込んでいる。幸い土砂はあんまり入っていない。アイガモ逃走防止のネットが押し倒され、カモたちはどこかへ消えている。
 でも大丈夫。「オーイ」と声を上げると、ガーガー、ガーガーと大喜びで、どこからともなく走り寄ってきた。と言っても私に懐いているのではなく、「オーイ」の後に撒かれる餌に懐いているのだ。
 ともかく、この日、谷にはチェンソーの音が響き渡り、木々の処理とネットの張り替えで一日が終わった。

 


 大汗をかいた肉体労働の疲れを取るにはスッポン鍋だ。いそいそと橋口さんちへスッポン貰いに出向いた。2キロはある大物だ。会社に戻り、2、3日は泥を吐かした方がよかろうと、唾を飲みながら、発泡スチロールの箱に入れた。逃げたらかなわんと、ふたの上にブロックまで載せておいた。
 翌朝、会社に行くと、ふたが開いているではないか。ブロックも横に転がっている。逃げたのだ。慌てて草むらを捜したが、いない。何人か横一列になって捜す山狩りでもしなければ発見は無理だろう。かくしてスッポン鍋はあっけなく霧消した。
 でも、スッポンとて命懸け。必死にふたをこじ開けたのだ。今頃どこかの水辺にたどり着いているだろう。スッポンの身になれば、自由を取り戻せて、万歳!だ。

 

 

 


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鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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