幻の怪魚
9月7日、坊津へ釣りに行った。
鹿児島にUターンする前に勤めていた会社で、30年程前に一時名古屋支社にいたことがある。その時に世話になった取引先の知人が、なぜか、縁もゆかりもない坊津で民宿を始めたのだ。屋号は「夕焼け」。2012年の知事選の折にも、はるばる名古屋から応援に来てくれた。実に気のいい人間だ。
おまけに、小学6年の息子は、目の前の海で腕の太さほどのマゴチを何本も釣り上げているという。行かぬわけにはいかない。
マゴチは先ず小魚を釣って、それを餌にして置き竿で待つ。狙いをマゴチに据え、竿を4本抱えていそいそと坊津へ向かった。
3時過ぎ、宿に着くと、休む間もなく海へ。小物釣りの道具で先ず小魚を狙う。釣れる、釣れる。スズメダイ、オヤビッチャ、フエダイの子供も何種類かかかった。まずまずのイスズミもゲットだ。でも、大物釣りの餌には大きすぎる。
そのうち知人が、小アジ釣りのサビキ仕掛けを持ってやってきた。かかった小アジを餌にして海に放り込んでおく。小6の息子も放り込む。何の変化もないまま、私の小魚釣りが続いた。
と、突然、息子の竿が曲がった。大物だ。ぐんぐん引かれ懸命にこらえている。バキッ、竿が折れた。あー、もったいない。
見ると、私の置き竿も、竿先がグーッと海に突っ込んでいる。慌てて竿を取ろうとしたが、ブツッ、音を立てて糸が切れてしまった。5号の糸だから、そこそこの大物には耐えるはずだが、ものの数秒で切られてしまった。
時計を見ると5時過ぎ、夕まづめだ。魚の釣り時は、朝と夕のまづめ時。これは釣り人の間では広く知られた定石だ。太陽と水平線の間が詰まるから間詰というらしい。
朝は植物プランクトンが太陽の光を求めて浮き上がり、夕方は夜行性のプランクトンが活動を始める。それを待ってましたとばかりに小魚が大喜びで群れ食べ、この小魚を目指して大物が回ってくる。
その後も立て続けに3回ほど大物がかかったが、糸が耐え切れず、結局姿は見れずじまい。
逃げた魚は大きいというが、紛れもない大物だった。しかも、引き方の違う何種類かがいた。いまでも、ブツッと糸が切れた瞬間の映像がはっきり目に焼き付いている。
今度は10号の糸に、腰の強い竿を持って行こう。坊津の海にゆっくり回ってきた怪魚の顔を見るまでは、どうも落ち着けない。
それにしても、人間を相手にするより魚相手の方がずっと面白い。
イトフエフキ キュウセンフエダイ